生活保護の方が亡くなって,施設などで通帳を預かっていたり,貸していた部屋に荷物があったりなど,相続財産があるとき,相続人が引き取ってくれないということもありがちです。
 相続人が引き取りをしてくれないときに,これを強制することはできません。保管について費用がかかるので,その費用分の損害賠償請求をすることになると通告するのも一つの方法でしょう。また,所有権放棄してもらうのもよい方法でしょう。相続放棄してもらうということも考えられますが,次回に述べる相続財産管理人を選任するという,時間も費用もかかることになるので,得策ではないと思います。
 これらの説得をしても引き取らないときは,裁判で債務名義をとって,強制執行を行うしかないでしょうね。
 こうした事態を防ぐには,物を預かったり,賃貸契約をするときに,予め生活保護の方に,亡くなった場合には所有権放棄する旨の念書をとっておくとよいと思われます。
 なお,時効により返さなくてもよいのではないかと考えられないでしょうか。たしかに,預かった場合の返還請求権(寄託契約などに基づく)は,10年の消滅時効(民法167条)にかかるでしょう。しかし,所有権による返還請求の場合は,占有の開始が他人の物とわかってるので,自主占有にならず,時効が開始しないため,時効取得(民法162条)できず所有権は相続人のままとなるため,いつまでも返還を求められる可能性があります。(つづく)
宮前法律事務所