最近,成年後見制度について講演を行いました。せっかくですので,何回かに分けて講演した内容を掲載します。

 1 成年後見制度とは(どうして後見制度が必要なの?)
 成年後見制度とは,本人の判断能力が精神上の障害により不十分な場合に,本人を法的に保護し支える制度です。
 成年後見制度はどうして必要なのでしょうか。身内の方が代わりにやってあげればそれでよしとはならないのでしょうか。
現在の私たちが暮らす社会は,自由社会と呼ばれています。近代市民革命以後,それまで国家以外に様々な中間団体に拘束されていた個人を解放してばらばらにし,個人それぞれが取引など「権利の主体」となりました。そうした自由社会では,権利の主体である個人と個人(会社などの法人も含みます)の間の私的な領域について民法という法律が規律しています。近代民法の規律の仕方は,私的自治の原則とか契約自由の原則とか呼ばれるように,個人の欲するところ,個人の意思に従った自由な行為を尊重して,その結果について効力を認めるのが原則となります。たとえば契約をしたとき,当事者がそうしたいと思って契約したなら,そのとおりに効力を認め,当事者が定めなかったことについて民法の規定がはじめて効力を持つのが原則です。もちろん契約の内容が社会の秩序を乱すような極端なものだと公序良俗違反となって無効とされることはあります。しかし,当人たちがそうしたいというのだったら,その通りの効力を認めてあげるのが公平というもので,国家がとやかく口を出すべきではないと考えています。
こうした自由社会,近代民法の考えに基づくとき,権利の主体が,自分が何をしようとしているか,そうすることでどんな事態になるのかが十分分かっているのであれば,もちろん何の問題もありません。こういった能力を「意思能力」とか「事理弁識能力」といったりしますが,簡単には「判断能力」だと思ってもらえば十分です。
しかし,もし判断能力がない,あるいは低減してしまっている者がいるのに,自由にやらせて,そのままの結果に拘束されてしまうと,当然自由競争の犠牲者となる人が後を絶たないことになってしまいます。
そこで,そういう能力のない者のした行為は,無効とされます。このことは近代民法の大原則として当然の原則とされてきました。現行民法では明文の規定がなく,解釈上認められていたのですが,今回の改正民法で明記されました(民法3条の2)。
けれど,無効だというには,能力がなかったといわなければなりませんが,それをいちいち証明することは大変です。しかも,取引の相手方にとっても,ちゃんと取引したつもりが後でいきなり無効とされてしまうとしたら非常に困ってしまいます。そんなことになるのは嫌だから,この人は危なそうと思われたら取引してもらえなくなってしまいます。それでは本人にとっても困ったことになります。
そこで,民法は,「制限能力者」という形式的な枠を作って,意思能力がなかったり低減したりしている本人を保護し,かつ取引相手も予め知りうるような制度を用意したのです。成年後見制度もその一つということになります。ーつづくー

 

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